「貧困女子高生」の嘘ニュースに踊らされる哀れな人々
「貧困女子高生」問題は、NHKの特集に端を発しています。
NHKの特集で、貧困女子高生のモデルケースとして「うらら」さんが出演。「日本では6人に1人の子どもが貧困状態にある」という主張を裏付ける当事者として出演しました。
うららさんの概要としては、デザインの仕事に興味があり、将来は専門学校に進みたいが、経済的な壁があり断念しました。
収入が一定以上ない、貧困状態だからです。
その例として、クーラーがない、授業で使うパソコンが買えずキーボードだけを購入した。というエピソードを紹介。
これだけで終われば「貧困にあえぐ若者が、貧困のため夢を諦めざるをえなかった。」社会として対策が必要である。となり、NHKの特集は体裁が整います。
問題はここからです。
放送を見たネット民から「映像に高価な画材が写っていた」「エアコンらしいものが見える」と疑問の声が上がります。
続いて同級生と称するツイッターを経由して「うらら」さん本人のツイッターが発覚。(現在はどちらも閉鎖済み)
好きな「映画を5回見た」、「ライブに行った」、「1000円のランチを何度も食べた」という、おおよそ「貧困」という言葉のイメージからかけ離れたツイートにネット民は荒れた。
そしてこの炎上をネタにページビューを増やそうと考えたBusiness JournalなるメディアがNHKのコメントを捏造した記事を掲載、「お詫びと訂正」に至りました。
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16526.html
お詫びの内容からおよそメディアとして機能してないデタラメなメディア像が垣間見える。
いわく、取材した者はNHKの映像も見ていなければ、NHKに取材もしていなかった。さらに外部の記者に委託した記事を編集部でチェックもしていない、という呆れたものでした。
これが「報道」?
よくもまあ恥ずかしげもなく、メディアだの報道だの言えたものだ…。
■相対的貧困と絶対的貧困の違い
一般的に貧困と言われて何を思い浮かべるでしょうか?
例えばホームレスのような、住む場所がない状態。または、食べるものがないという状態。そういった状態を想像するのではないでしょうか。
その状態は「絶対的貧困」と呼ばれています。
現在の日本では生活保護制度があるため「絶対的貧困」はほぼ存在しません。
「絶対的貧困」と言われて思い起こすのは、生活保護を辞退した方が「おにぎり食べたい」と書き残し、餓死したニュースです。痛ましいことですが、これはあくまでレアケースと言えます。
つまり「絶対的貧困」から見えてくるのは、公的扶助制度や経済・流通など社会インフラの問題です。
「絶対的貧困」に対して「相対的貧困」というものがあります。
聞きなれない言葉ですが「相対的貧困」とは大雑把に説明すれば「可処分所得(手取り)が全体平均の1/2に満たない世帯」のことを指します。
日本の例で言えば、単身者では122万円未満、2人世帯では約173万円未満といった具合に細かく定められています。
平均所得が高ければ相対的貧困のボーダーラインも高くなります。そのため「相対的な貧困」と呼ばれています。
2016年に統計が取られたOECD(経済協力開発機構)のデータによると、アメリカの平均可処分所得は4.48万ドル(約485万円)。つまり、半分の2.24万ドル(約243万円)万円以下の世帯は相対的貧困。
日本のは2.85万ドル(約306万円)、つまり1.43万ドル(約154万円)以下の世帯が相対的貧困となります。
一方メキシコではが1.34万ドル(約145万円)なので、日本の相対的貧困世帯はメキシコでは平均以上の恵まれた世帯となる。
このように相対的貧困とは、その国における富の分配に関する問題です。
世界でも一二を争うほど豊かで物にあふれたアメリカと日本が、相対的貧困という指標では世界で最低レベルにあります。
つまり絶対的貧困と、相対的貧困は、原因も問題も全く異なるということが理解していただけたと思います。
■子供の1/6は貧困って本当?
日本の相対的貧困率は統計のある2010年の時点で16.1%で、先進国の中では6番目に高い貧困率となっています。
また、子供がいる世帯の貧困率は15.1%。さらに、ひとり親(シングルマザーなど)の世帯では実に54.6%の世帯が貧困となります。
この現状を指してメディアで騒がれるような「子供の1/6は貧困である」となります。
日本は世界的に見れば裕福な先進国ですが、富の分配という点では非常に不公平な国です。その証拠として日本の相対的貧困率の16.1%は先進国の中では6番目に高い貧困率だからです。
ここには日本おけるさまざまな問題が隠されています。
社会保障費が増え続け、子育て世代の可処分所得が減り続けていること。
子供を持つシングルマザーが、派遣やパートという低収入の職に甘んじるしかないといった現状。
離婚した子供の養育費を8割が払っていない、といった問題。
少子高齢化問題、女性の活躍する社会、ワークライフバランスの見直しなどと政治の世界で声高に叫ばれていますが、相対的貧困率が上がり続けている現状を鑑みれば、日本にはまだまだ解決すべき問題が山積みであることが理解できます。
こうした社会問題と正しく向き合うためにも、国営メディアであるNHKには相対的貧困について正しく伝える義務と責任があります。
むしろ国営メディアであるからこそ丁寧に伝えなくてはならない重要な情報です。
少なくとも相対的貧困という前提を無視して「子供の1/6は貧困である」というキャッチーな標語を強調して伝えるのは、明らかにミスリードです。
■メディアによる傲慢な誘導と、幼稚な捏造
ここまで読んでいただけた方なら理解していただけると思います。
相対的貧困を描くのに「クーラーがない」「パソコンが買えない」といった旧来の貧困象を想起させるのは全くの誤りです。
NHKの職員が、この点に気がついていないわけがありません。
ではなぜ偏った視点の特集を作ったのか?
その根底には「低能な視聴者でも理解できる番組を作ろう」という蔑みがあります。
または「世論は我々が先導するという」思い上がったエリート意識が原因です。
新聞の記者が記事を作成するにあたって、読者の読解力を何歳くらいに想定しているかご存知でしょうか?
一般紙で小学校5年生程度、専門的な知識が必要な経済紙でも中学1年生程度の読解力を想定しています。
こうした想定が「誰にでも理解しやすい記事を書く」という意識を生めば問題ありません。
しかし多くのメディアでは「誰にでも理解できるように」の部分を都合よく解釈し、記事にとって都合の良い事実だけを選別するようになります。そして当然あるべき反証や反対意見を黙殺することになります。
こうしていわゆる「筋書き通りの記事」ができあがります。
これがメディアの傲慢と言わずしてなんというのでしょうか。
さらに悪いことに近年ではインターネットの台頭によって、既存メディアは自己保身のため、なりふり構っていられない状況にあります。
結果として、生き残るために「とにかく売れれば良い」「とにかく話題になれば良い」という低俗な記事がもてはやされることになります。
そうした風潮は、ページビュー至上主義の幼稚なネットメディアによって助長されます。
今回の件で言う、NHKとBusiness Journalという構図です。
■現代におけるリテラシーとは何か
話題にするために偏った事実を伝える既存メディア。
その「話題」はPV至上主義のネットメディアによって、おあつらえ向きのサンドバックに仕立て上げられる。
それをお祭り騒ぎでリンチするSNS利用者。
嘘ニュースはこうして作り上げられ、信憑性を持ち、炎上していく。
今回の貧困女子高生の件に関して「うらら」さんは完全なる被害者です。
少なくとも「貧困」というデリケートな問題を勇気を持って訴えた一人の女性に対し、ネットでのリンチをもって遇する社会が健全であるとは、誰も言えないでしょう。
ネットには、こうした話題と炎上のスパイラルを娯楽のように楽しむ風潮があります。
今、我々に求められるのは、洪水のように垂れ流されるメディアの情報や、SNSの空気に左右されること無く、自分で調べ、自分で判断する、という姿勢ではないでしょうか?
ネット先進国のアメリカで嘘ニュースが政局を左右しました。
「日本でも同様の愚行が再現されかねない。」
私の懸念が杞憂であることを祈るばかりです。
”貧困女子高生” 炎上の背景に報道側の配慮不足とネットの悪ノリ(水島宏明) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/mizushimahiroaki/20160822-00061377/
引用の本文:NHKニュースに登場した”貧困の女子高生”がヤラセ?という書き込みがネットで拡大した。女子高生の問題というよりNHK側の配慮不足と悪ノリした炎上メディアが背景だ。テレビの貧困報道の難しさを痛感する。
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ID:1
名前:匿名
投稿日時:2019-06-10 20:26:57
>好きな「映画を5回見た」、「ライブに行った」、「1000円のランチを何度も食べた」という、おおよそ「貧困」という言葉のイメージからかけ離れたツイートにネット民は荒れた。
これは当たり前だ。相対的貧困なら映画なんて1回も見に行かないしライブにも行かない。
1000円のランチを何度も食べないわ
そうやって節約しないから相対的貧困になってるんじゃないのか?
クーラーは熱中症予防に必要だから何も文句はない。それで熱中症で4んでしまったら元も子もない。
毎年クーラーつけないで扇風機だけで過ごしてた高齢者がなくなるというニュースが夏にはある。
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