ワタミと渡邉美樹による「やりがい搾取」の終焉

投稿日時:2016-03-30 15:20:36

投稿ユーザー:田中泰

タグ:ワタミ, 渡邉美樹, やりがい搾取, 労働基準法, 過労死, 自殺

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■過労死訴訟の歴史的和解

あのワタミが過労死に関する訴訟で和解した。
ブラック企業の申し子と言えるワタミがついに折れた。

渡邉美樹は社員が過労死したことについて「命懸けで反省」などと言いながら、「ブラック企業批判は風評被害」と強弁を振るっていた。社員の自殺が労災認定されても「安全配慮義務違反はなかった」などと主張していた。当然ながら世の風当たりは強まるばかりで、ワタミの業績は右肩下がりを続け、鳴り物入りで始めた介護事業は身売りするに至った。

この訴訟において1番画期的なのは渡邉美樹が経営手法の誤りを認めた点にある。
ワタミ急成長の中で発揮された、強烈なリーダーシップが過労死の原因になったと認めた。

渡邉美樹の立身出世物語は有名だ。運送業で金をため、つぼ八から始まり、一代でワタミグループをつくり上げる。生半可な努力ではできない。体力・精神力・経営手腕、全てにおいて比類なき能力がある。それは誰も反論しないだろう。
問題は、その成功体験を社員に押し付ける点だ。「私ができたんだから、社員もやれる」という論法だ。自分がそうであったように、ハナから三六協定や労働基準法などというものは度外視している。そんなものは渡邉美樹流の成功体験おいては無価値だからだ。

そこには「全ての人が夢だけで生きることはできない」「努力には限界がある」という当然の配慮がない。オリンピック選手の練習をすべての人ができるわけがない。そのまま行き過ぎればどうなるか、火を見るより明らかである。結果は追い込まれた社員の自殺という最悪の形となって現れた。


■ワタミのどこがブラックだったのか

では、ワタミのどこがブラックだったのか。募集要項を元に詳しく見ていこう。
(http://wfs.hr-watami.net/recruit/)

店舗勤務職で社宅住みの場合、基本給16万、みなし深夜勤務手当3万、時間外勤務手当(45時間)約5万、合計約24万円となっている。
他に家族手当(3万)や、社宅でなければ住宅手当(1万)などがある。
賞与は年間で基本給の3ヶ月分とのことなので、年48万円。年収は300万程度ということだろう。

この求人票には様々な問題がある。
そもそも、給料のモデルケースに時間外勤務手当が組み込まれていることがおかしい。しかも1カ月45時間は三六協定の上限ギリギリだ。三六協定では年間360時間以上の残業を禁止している。しかしワタミのモデルケース通りに計算すると年540時間になり違法状態となる。

さらに悪い事に、内部告発者によると実際は平日14時間、土日祝日なら16時間勤務となる。「140時間時間外労働をしたが45時間までしか認められなかった」という別の告発からも信ぴょう性がある。過労死を巡る裁判でも「電車のない時間まで働かされ、店に泊まることもあった」という。

「休日・休暇」は年間107日とあるが、これも事実とは異なるようだ。実際には休日は週一度。さらに休日も店に顔を出すことを推奨されたり、研修に参加したり、社長の自伝を読んでレポートを提出したりと盛りだくさんだ。これでは休息とはとても言えない。

休憩も1時間取れることは稀とのことだ。それは渡邉美樹の「営業12時間の内にメシを食える店長は二流だと思っている」という有名な語録からも想像が付く。
仮に1時間きっちり取ったとしても、月に314時間労働となる。賞与を入れて計算しても時給換算891円だ。全国平均で見れば最低賃金は798円なので、100円ほど高いと言える。しかし東京の最低賃金は907円には届かない。


■ワタミのやりがい搾取の仕組み

渡邉美樹が社員に言うには「仕事とはお金と時間のやり取りではない。相手からありがとうと感謝される。そこに、やりがいがあって生きがいがある。」
つまり、給料は少なくても幸せなんだ思える社員に来て欲しいそうである。そういう社員に対しては「幸せにするぞ」と約束するそうである。

ちなみに渡邉美樹の議員所得の申告によると14年度の収入は12億円だそうだ。どうやら社長の幸せだけは大いに金が関係するようだ。本当に社員を幸せにするつもりがあるなら、少しは社員に還元してはどうだろうか。それこそ、たくさんの「ありがとう」が集まるはずだ。

そもそも、労働基準法では労働に対しては使用者が対償(対価)を払うことが義務付けられている。労働への対価を「お客様からのありがとう」にすり替えるのは、明確な労働基準法違反だ。

ワタミの公表した2010年新卒の3年離職率は42.8%とのこと。厚生労働省が出した数値は51%。8.2%ほど開きがあるが、この辺の顛末は以下のサイトが詳しい。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/uenishimitsuko/20140328-00033979/

全産業は28.8%なので倍近い。しかし、ともかくも、飲食業界の平均48.5%とほぼ変わらない水準と言える。
いわゆる「業界水準」だ。渡邉美樹に言わせると「これでブラックと言われるなら、飲食業界は全部ブラックだ」となる。
他にもブラックでない理由の1つは社員から慕われていることだそうだ。選挙で各地を回れば熱烈な社員から感謝の手紙が2千数百通集まるそうだ。自主的に2千数百通もの手紙が集まると思っている時点で、感覚がまともではない。

最低賃金すれすれの給料。違法な長時間労働。ワタミにとって都合の良い刷り込み研修。たまの休みもレポートの提出。給料から天引きされる社長の書籍代、慈善事業への半ば強制的な寄付。まるで宗教のようだ。

一般人の感覚からすると十分にずれている。ザ・ブラック企業と言える。ワタミからすると「飲食業界ではもっとブラックなところが多いから許される」という意識があったのかもしれない。しかし、それは明確に誤りだ。140キロ出した車が「周囲の流れに乗っていれば何キロ出してもスピード違反ではない」と主張するようなものだ。


■日本中にはびこるやりがい搾取の職場

ワタミのような法律を無視した労働環境は日本中にある。
今だに消えない、奉公人や丁稚奉公といった感覚。「技術は盗んで覚えろ」「上司の言うことは絶対」「修行中は我慢しろ」
日本人はこうした異常な労働観から抜けだせないでいる。

特に職人や技術者の世界は顕著だ。
見習いは半人前で、仕事は先輩から殴られて覚える。勉強させてもらっているだけありがたく思え。そういったお山の大将を気取りがいまだに多い。板前の修行なら手取りで12万円も珍しくない。ワタミもびっくりの給料だ。

低賃金で話題になったアニメーターは20~24歳の平均年収が111万円。3年離職率が80%にもなる。
他にもデザイナー、美容師など、最低労働賃金以下の職業がウヨウヨとある。いわゆる「やりがい搾取」と呼ばれる状態だ。
労働者の権利は法律で守られていると言っても、いくらでも抜け道はある。個人事業主として登録して、フリーで出向しているという体を装う。年俸で契約し、裁量労働制とすることで時間外労働の対価を支払わない。といった具合だ。

今回の和解では「社員のやりがい」につけ込み、異常な「業界の標準」を押し付ける経営手法が断罪された。その点に価値がある。
これはワタミだけの問題ではない。不幸な事件だったが、これを機に日本の多くの業界で労働環境が改善されることを望む。大企業のベースアップではなく、夢を食い物にされ、低賃金で喘いでいる若者にこそ、焦点を当ててもらいたい。

和解のご報告 - 渡邉美樹公式サイト

https://www.watanabemiki.net/wakai/

引用の本文:かねて皆様にご心配をおかけいたしておりました、労災訴訟につきまして 先日、原告と和解に至り、裁判所内で、ワタミの元女性社員のご遺族に直接、 衷心より謝罪を申し上げました。和解文の通り、もっとも重い責任は、私に...

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名前:アンコロモチ大王

投稿日時:2018-07-20 16:56:02

多くの日本人がワタミのような職場でやりがい搾取のような目にあっているのかと思うとやり切れない思いでいっぱいである。日本も早くドイツやオランダのような一日8時間労働以外は絶対職場には残れない、のこれば直属の上司が刑事罰を受けるような制度を早く作るべきだと思う。

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ID:2

名前:匿名

投稿日時:2019-04-29 20:10:24

結局今の日本は不況とデフレのスパイラルから抜け出せていないんだよ。
だからワタミが生まれたんだよ。今では鳥貴族だの結局は安い居酒屋が流行る。

国民全体で安くて良いサービス求めといて、人件費は削るなってダブルスタンダードはお互い様だと思うね。

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ID:3

名前:通りすがり

投稿日時:2020-05-31 09:52:58

時代錯誤な価値観を社員に押し付けてするから結局腕のない社長だったという事だ 恨み憎しみを買って大勢を敵に回してしまったワタミ もう未来は無いだろう
人を殺した者にはそれに見合う代価が発生する 因果応報 欲に溺れた者の末路 ワタミみたいな時代錯誤な考え、体質の会社はこれから先どんどん淘汰されていく
労働者は金を生み出す資源であると同時に支配者を監視しているお目付け役でもある 古い存在はいずれ消える事になる 遅かれ早かれ

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