パレルモ条約のために殺された共謀罪

投稿日時:2017-06-21 22:36:32

投稿ユーザー:匿名

タグ:共謀罪, パレルモ条約, テロ

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まず整理しなければならないのは共謀罪についてだ。
共謀罪とはテロ組織や暴力団が組織的に重大な犯罪を計画し、資金を集めたり実行現場を下見したりといった準備行為の時点で逮捕することができるという法律だ。

なぜ政府は共謀罪の成立を急いだか。
国連で定められた国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)という条約が関係している。
この条約はインフラの発達やインターネットの普及で国際化した組織犯罪(人身売買・密入国・武器の密輸など)を取り締まるためのものだ。
取締の内容としては犯罪組織への参加・共謀・マネーロンダリングなどへの対処を定めている。
具体的に対象となるのは国際的なマフィアやテロ組織となる。

この条約の締結国は182カ国に及ぶ。現在国連で認可されている国の数は193カ国。つまり締結していないのは11カ国しかない。日本はこの11カ国に入る。つまり極少数派と言える。

締結国同士は国際犯罪組織との犯罪者の引き渡しや情報の共有が可能になる。
条約への締結は国際社会との連携をもって平和外交を展開する「積極的平和主義」を標榜する現政権にとって重要な意味を持つ。
特に東京オリンピックを控えた日本としては是が非でも締結したい条約だ。

しかし2017年6月現在まで締結には至っていない。
なぜか?
それは条約の条件にある。

パレルモ条約の第五条に「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」という項目がある。
そこには組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪について、指示や幇助・援助についても犯罪とする、とある。

これは犯罪の実行時だけでなく、準備行為についても犯罪とすることを求めることだ。
日本には準備行為の時点で犯罪とする法律は整備されていないため、パレルモ条約の条件を満たしてない。

以上の点を踏まえて、今回の共謀罪を含むテロ等準備罪の成立に至った。

テロのニュースは連日のように配信されている。このような現状では、パレルモ条約を締結するのも、共謀罪が必要なのも、多くの国民が理解しているはずだ。

ただ、こうした前置きとは別に、共謀罪には2つの大きな問題が存在する。

■日本国民であれば誰でも監視対象になりうる

まず、何をもって共謀罪の監視対象となるか。
法案では「組織的犯罪集団」となっている。具体的には犯罪を「2人以上で計画した者」が「準備行為」を行った場合とされている。

さらに対象となる犯罪は「4年以上の懲役・禁錮」となる277の罪に限定されている。

実行前に逮捕が可能という点から戦前の悪しき法律、治安維持法を連想する人もいるようだ。治安維持法を根拠に特高警察が国民を無差別に思想犯に仕立て上げた。しかし治安維持法の対象は「国の体制を転覆させる活動」とされており、特定の犯罪と準備行為が必要な今回の法案とは性質が異なる。

では「組織的犯罪集団」とは具体的にどのような組織を想定しているか。国会の答弁ではテロリスト集団や暴力団、悪徳商法(振り込め詐欺集団)などを想定しているとのこと

テロリスト集団という言葉はいかにも曖昧で、明確な基準が存在しない。法案に明記されている通り2人でも集団になってしまう以上、日本国民であれば誰でも対象となりうる。

政府は犯罪集団が「計画」し「準備行為」をした時点で初めて捜査の対象になるので、一般人には捜査が及ばない。常時監視も行わない。といった説明しているが、では、監視をせずにどうやって計画や準備行為を立証するのか。内部告発や伝聞の類で嫌疑が発生するのか。
これが事実だとすれば、パレルモ条約を締結するためだけに作られた、有名無実な法案と言える。

こうした点に関して煮詰まっていない乱暴な法律と言える。

例えば対象を「前科のある者、もしくは前科のある集団」に限定したり、「裁判所による令状が必要」となれば、かなりの歯止めになる。

■新しいテクノロジーによって広がる監視行為の拡大

共謀の時点で犯罪とするには、共謀の事実を捜査する必要がある。前科がない限り、共謀するまでは一般市民だ。つまり、一般市民の監視は共謀罪の立証と切り離せない。

従来のパトロールや張り込みといった従来の捜査と同じように、監視カメラやGPS捜査の有用性は広く認知されている。新しいテクノロジーによる捜査は犯罪の抑止や摘発には必要不可欠のものだ。

問題は監視行為がどこまで及ぶかだ。
監視は電話、監視カメラといったものから、メール、インターネットの履歴などあらゆるものが対象となる。

現状では共謀罪の捜査に電話の傍受は含まれていないようだが、では、掲示板を監視するのは、ブログを監視するのは、SNSの個人的なやり取りを傍受するのは…と、十分な議論が行われていない。

事実、共謀罪の先進国と言えるアメリカでは、アメリカ市民のあらゆる活動を監視している。
9・11のテロによって愛国者法が作られ、NSAによる監視活動が開始された。2008年、イラク戦争が泥沼に陥ると、監視活動に令状が必要なくなった。

「テロを未然に防ぐ」または「戦時の緊急的な措置」といった命題のもと、権限は強化され続けた。日々生まれる新たなテクノロジー。テロ組織の先手を取るために、監視網を広げていった。気づけば職権が乱用され、ありとあらゆるプライバシーは侵されるに至った。
こうした現状を、元職員達すら疑問を抱き、告発に踏み切っている。彼らの告発を聞かされたアメリカ国民は怒り、疑問の声を上げている。

こうした動きを受けて、オバマ大統領は「100パーセントの安全と、100パーセントのプライバシー尊重は両立しない。」と発言した。

安全とプライバシーが両立しない以上、どこまで認め、どこからが違法なのかを定める必要がある。そのためには国民の意思を合意形成が必要だ。

また、監視行為が適切であったかを調査する第三者機関の存在も不可欠と言える。

国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が人権に関わる問題だと指摘したのは、この落とし所についてだ。国連の条約を締結するための法案について、国連の選別した人間に指摘された理由もここにある。

「特別報告者は個人の資格であり国連の代表ではない」「我が国の立場を十分に反映していない」などと反論するのは筋近いというものだ。

パレルモ条約を締結するため、臭いものに蓋をするように拙速に決められた共謀罪。現実味のない例を検証するだけで通過させるにはあまり影響が大きい。

本当に諜報活動が必要なのか。必要だとしたら、どこまで諜報活動が必要なのか、もう一度丁寧に練り直す必要ある。

「共謀罪」法が成立 与党が参院本会議で採決強行:朝日新聞デジタル

http://www.asahi.com/articles/ASK6H0PKHK6GUTFK02F.html

引用の本文: 犯罪を計画段階から処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法が15日朝、参院本会議で成立した。自民、公明両党が委員会採決を省略できる「中間報告」の手続きを使って一方的に参院法務委員会の…

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