スポーツは人間がやるから面白い

野球評論家の張本勲氏が、サッカーのカズへ「もうお辞めなさい」と発言し、話題になっている。
私としては、張本氏が誰に引退を勧めたところで、それは自由だと思う。

張本氏は以前、成績の落ちてきたイチロー選手に対しても「もう辞めるべき」と言い放った。
その時の理由が「私は晩節を汚すことを良しとしなかった」といった趣旨の発言だった。
自身も一流選手として活躍した張本氏だからこそ実感を持って言える意見だ。
「成績不振にあえぐ無様な姿を見せるなら、憧れの選手として引退したい」との矜持だろう。
それも一理ある。大抵の人がその意見を尊重するだろう。

が、しかし、スポーツの楽しみは偉大な選手への憧れだけだろうか？
王・長島などの華やかな選手の影でプロ野球を盛り上げた多くの無名な選手がいたからこそ、
彼らは偉人として皆の記憶に残っているのではないだろうか。

「届かなかったレギュラー、あと一歩だった勝利、諦めきれない夢」そうした憧れをプロ選手に投影することもあるだろう。
しかしそれと同時に、怪我や衰えと闘う選手に、社会で闘う自分自身の姿を重ね合わせているのではないか。

すべての人が恵まれた天才ではない。また、どんな一流の選手でも衰えはくる。
限られた条件の中で必死に結果を出そうともがく姿を見て、思わず「頑張れ！」と声援を送る。
それは選手への声援であると同時に、自分自身へのエールでもある。

記録だけを重視するならスポーツは何とも味気ないものになる。
陸上の100メートル走を「ただ早く走るだけの競技」と考えれば、何の面白みもない。
それこそバイクに乗った人を隣で走らせれば、簡単に追い抜けるのだから。

スポーツ選手の応援するという行為の本質は、
限界のある中で必死に練磨する「人間らしさ」の中にあるのではないだろうか？